歌舞伎の演目は、その世界感の表現として「○○物(○○もの)」と称することがあります。
『桜姫東文章』は「清玄桜姫物」と「隅田川物」そして江の島の「稚児ヶ淵伝説」が綯い交ぜとなった世界観の上で上演されます。通底するのは吉田家のお家騒動としての「隅田川物」。
四代目鶴屋南北の作。
その世界感は倒錯しているというか、退廃的というか、かなりエログロナンセンスなプロット。
稚児愛、転生、破戒、怪談、殺し、濡れ場・・・エンターテインメントとして、ありとあらゆる俗で悪で艶なプロットが盛り込まれています。
そんな、ちょっとありえないような設定や筋書きが、とにかく美しい役者たちの美しい演技で演じられます。
「桜姫」のち「風鈴お姫」・・・・坂東玉三郎(大和屋)
「自休」のちに「清玄」、「釣鐘権助」実は「忍ぶの惣太」・・・・片岡仁左衛門(松嶋屋)
とにかく、仁左衛門丈と玉三郎丈、この2人の人間国宝の美しいお姿を間近に見られる幸せ。退廃的な美が圧倒的な歌舞伎の世界感で表現されます。
四月の「上の巻」は花道横。今回は4列目の上手側。桜姫の絹連れの音や釣鐘権助の煙草の香りも匂うような良席で観られた幸せ。
「上の巻」(四月大歌舞伎)
発端 江の島稚児ヶ淵の場・・・海へ身投げする恐怖感。
序章第一場 新清水の場・・・転生の“しるし”の香箱の蓋
序章第二場 桜谷草庵の場・・・釣鐘権助と桜姫の“濡れ場”
二幕目第一場 稲瀬川の場・・・物語の展開としての清玄の想いと桜姫の当惑。
二幕目第二場 三囲土手の場・・・すれ違いの哀しみ。これからどうなっていくの?で「上の巻」はおしまい。
「下の巻」(六月大歌舞伎)
三幕目 岩淵庵室の場・・・清玄の情念のすさまじさ。
四幕目 山の宿場権助住居の場・・・風鈴お姫の言葉遣いに癒される。そしてまさかの展開。
大詰 三社祭礼の場・・・大団円としか言いようのない場面。