また古いモノの話、今回は時計の話を。
高度経済成長とサラリーマンの腕時計
高度経済成長を突き進む1960年代、腕時計はサラリーマンのステイタスシンボルのようなものでした。
機械式時計の最高峰「グランドセイコー」、庶民にも手が届く高級品としての「キングセイコー」、サラリーマンのご褒美時計「ロードマチック」…細かなヒエラルキー設定はそのまま会社の年功序列に重なるような階層となります。
経営者や役員層はグランドセイコー
部長級にはキングセイコー
課長になったらロードマチック
クルマも同じようなことが言えます。トヨタでいえば、クラウン>コロナ>カローラ。BMWでいえば(時期は変わるけど)7>5>3。
そんなセイコーヒエラルキーの中のアッパーミドルクラスの時計がキングセイコーです。
44キングセイコーの魅力
44-9990. キャリバーは手巻きのCal.44A、25石の19800振動/時(5.5振動/秒)。秒針規制付きの44KS後期ノンデイトモデルです。第二精工舎(亀戸)の製造。
丁寧に面取りされた立体的なインデックスや、「どっしりとした」と表現されるドーフィンハンド(時針)が特徴的です。
ケース部分はエッジが効いた太く力強いラグが目を惹きます。キングセイコー1stモデルの細いラグに比べ、存在感のあるラグとなりモダナイズされました。
各パーツ、素材の厚さや太さを強調するように面を変え、エッジを立たせて磨いていることで、しっかり光を捉えてキラキラ光ります。現在のグランドセイコーの造りにもつながる繊細で緻密な作り込みです。
所有の44キングセイコー 44-9990 は動品ジャンクをオクで落としたものです。1967年製造のもの。
まず傷が多く、エッジも取れて丸くなったアクリル風防を新品に交換します。これだけでシャキッとして大きく印象が変わります。
落札した個体にはかなり“くすみ”がありましたので、徹底的に手磨きします。といっても特殊なことはしません。サンエーパールと模型用の綿棒で地道に磨くだけです。ケースに打痕が一か所、スクリューバックのメダリオンも取れてしまっていますが、実用上問題ありません。ラグの部分に大きな傷がなく、エッジが非常にきれいだったので、軽く磨いた程度にしました。
古い時計を素人が手入れをするのは、各パーツまでで、腕時計の顔である「文字盤」そのものは、埃や目立つ汚れをふき取る程度しかできません。金属板を基材にしてコーティングや細かい文字の植字や印刷がされており、むやみに触ると状態を悪くしかねません。
この個体も文字盤2時辺りの端に腐食がありますが、目立たぬように拭き取り程度で留めました。
ケースを開けてみました。
動品なので注油くらいに留めます。輪列も美しく、ネジや歯車にも磨きがかけられています。高級機の矜持、「裏地に凝る」的な部分ですね。
セイコー創業140周年記念モデル
44キングセイコーは、セイコー創業140周年記念モデルとして復刻されました。
高価ですねえ。
手巻きのキャリバー(Cal.44A)は最新の薄型自動巻き(Cal.6L35)に置き換えられ、カレンダーもついています。また、特徴的なプラ風防もボックスガラスで再現されています。これだけでもすごい。デザイン的にはかなり再現度が高い復刻のようです。
機械式時計をいくつか持っていると「手巻き、カレンダーなしの機械式時計」というところが使いやすく、魅力でもあるのですが、現代の時計として復刻するには外せない機能だったのでしょうか。
古い機械式時計を集める、とは
44キングセイコー 44-9990 はキングセイコーの2代目モデル、1964年ら1968年まで製造されたものです。「東京オリンピック」から「東大全共闘」までと考えるとなにか激動の歴史をくぐり抜けたモデル、のように感じられます。
時計は時を刻むのが役割なので、古い時計を集めていると「歴史やその同時代性」が強く思い起こさせられることがあります。その時計が作られた時代とその空気感を纏い、変わることなく時を刻み続けている、というところに、大仰ですが浪漫や感動を覚えるのです。