EMPIREのカートリッジ
Victorのアナログプレーヤーがとても良い音を出すので、オルトフォンだけでなく、他のメーカーのカートリッジとの違いを確かめたくなりました。
エンパイア社のカートリッジ。1000 ZE/X
1971年から77年ころまで製造された米国製カートリッジ。
1971年の発売当時、スイングジャーナル誌での評価は次のようなものでした。
エンパイアのオーディオ製品にみられるサウンド・ポリシーはひとくちにいって、いかにも米国調らしいといい切れる。JBLの新大陸的な明快さと、清澄な迫力とを併せ持っている。ヨーロッパ調の格式ある控えめな品の良さはないが、フィラデルフィア・オーケストラの音のようにエリントン・バンドのサウンドのように華麗な迫力と厚さを感じるサウンドだ。
(中略)
1000ZE/Xはエンパイアのサウンド・ポリシーに乗っとった高級製品に違いない。しかし、この音は明らかに一歩を踏み出した。踏み出したとて「延長上」であるとはいい切ることはできない。というのは、ここにあるのはヨーロッパ調を目指したもので、品位の高い格調あるサウンドなのである。従来になくおとなしさを意識させられる点で、間違いなく「エンパイア」であることを眼で確かめたくなったぐらいだ。ピアノ・トリオを聞き、従来のエンパイアに感じられたきらびやかさが押えられ、スケールの大きさと音のふくよかさがにじみ出てきた。ヴォーカルではより生々しい自然らしさが感じられる。ただシンバルがやや薄く線が細い響きとなったように思われるのは私の耳だけか。
(岩崎千明 スイングジャーナル 6月号(1971年5月発行)「SJ選定新製品試聴記」より)
EMPIREだけどヨーロッパ調のサウンド
米国調、ヨーロッパ調という表現が時代を感じます。
エンパイアのカートリッジは一般的に力強く明るく、迫力のあるサウンド。対してヨーロッパ調とは繊細で格調高く米国調に比べおとなしく聞こえるが品位のある響きであり、この1000ZE/Xの場合はこれまでの米国調とは一線を画した落ち着きのある格調高いヨーロッパ調の音を出すという意味でエポックなカートリッジであったようです。
大編成の後ろの音まで聴こえる
レコードを再生してみると、トレース性能が高い、と感じます。ノイズもあまり拾わず、高音から低音までバランスよく鳴る。
オルトフォンを聴いて印象的だったのは高音域の繊細さや艶感でした。
比べてエンパイアのこのカートリッジが印象的なのは、全域にわたる解像度の高さです。全体の音の押し出しはオルトフォンに比べて控えめですが、くっきりとした美音が曇りなく響く感じです。
ジャズではあまりオルトフォンとの違いは大きくなく、どちらもよく鳴るカートリッジですが、クラシックのレコードを聞くと違いが鮮明になります。
特にダイナミックレンジの大きい大編成の管弦楽曲は、弦楽器の後ろのプルトの音まで聴こえる感じです。ヴァイオリンの音がオルトフォンよりも2〜3プルト多く聴き取れます。ホールの奥行きが深い印象です。
それぞれのカートリッジで得意科目があるようです。オルトフォンはジャズのライブ盤や室内楽のリアリティが高く、オーケストラものならエムパイアが得意そうです。