ステレオ・パワー・アンプリフター
プリアンプ、パワーアンプ、チューナーが70年代のビンテージマランツで揃いました。
1976年製造。米国マランツの設計、日本のスタンダード工業で製造されたモデルです。
プリアンプ Model 3300(1972)の製造当時のパワーアンプでいうと Model 250 がマッチング・アンプとなりますが、なかなか状態の良さそうな Model 250 が少ないのです。たいてい、8個もあるモトローラ製パワートランジスタが故障しており「音が出ない」、「通電したが煙が出た」的な状態のジャンク品が多いようです。モトローラのトランジスタがアキレス腱なのでは?と想像してしまいます。
その点、Model 140 は 250 よりも一回り小さな躯体と各種スペックも 250 の“弟分”的な位置づけのコンパクトパワーアンプ。回路構成もシンプルなので稼働している個体も多いようで、きれいなものが手に入りました。
本体の半分ほどのスペースを占める大きなトランスには「51.2.14」のスタンプ。Model140は国内製造のモデルですから、元号を使用した「昭和51年製」ということでしょうか。
パワーアンプの姿の美しさを左右するVUメーター。チューナーのインジケーターと色見も合い、夜景が美しいです。アメリカブランドのもう一つの雄、マッキントッシュオーディオの青も印象的ですが、マランツのこのターコイズに近い、ぼんやりとした優しい青色も見ていて癒されます。
ちなみに、VUメーターのバックライトの電球が切れている個体が多いですが、この個体は球切れなし。内部を確認すると過去2回、1985年と2016年に電球交換されているようです。最近まで使われていた履歴が分かると安心感も増します。
「オーディオの足跡」によると、
・マランツ伝統の技術を投入しつつコストパフォーマンスを高めたステレオパワーアンプ。
・出力トランジスタにはフェアチャイルド社製のPD200Wのものを採用しています。
「フェアチャイルド社」ときいて、高校生の頃に熱心に観ていたNHKのある番組のことを思い出しました。
「電子立国日本の自叙伝」
1991年にNHKで放送されていた「電子立国日本の自叙伝」というドキュメンタリーシリーズ。企画・編集は「乗船名簿」シリーズや「核戦争後の地球」、ハルバースタムの『覇者の奢り』を底本にした「自動車」といったNHKの名ドキュメンタリーを数多く制作したディレクター、相田洋氏。編集室のようなセットで相田Dと三宅民夫アナが軽妙な掛け合いで番組を進めていきます。全5回シリーズで、当時、日本が世界の先端を走っていた半導体開発・製造の歴史を、トランジスタの発明から追っていく番組でした。
Model 140のパワートランジスタが「フェアチャイルド社製」であることを知って、この番組のことを「はた!」と思いだしたのでした。
フェアチャイルド社は、後にインテル社を創業するロバート・ノイス、ゴードン・ムーアを含む8人が設立した半導体製造会社。世界初の集積回路(IC)の実用化・商業化や、インテルやAMD等、のちの半導体産業の礎となる会社を設立する多くの人材を輩出するなど、60年代半ばには世界最大の半導体メーカーでした。
「F」マークのトランジスタ
奥行きいっぱいに広げられた左右のヒートシンクに2個づつ、計4パワートランジスタがあります。「F」の文字はフェアチャイルド社製のマーク。
このパワーアンプが製造された1976年当時はフェアチャイルド社も基幹の半導体事業が不振だった時代。軍需が主の半導体産業で民生品、しかも音響用半導体など商業的にはごく小さな需要でしかなかったはずですが、この出力200Wの「F」マークのパワートランジスタは半導体産業の歴史を背負っているようにも思えて感慨深いものがあります。
Model 140の表現力
これで完全なセパレートアンプの構成となりました。
パワーアンプとしては割とコンパクトな躯体。見た目以上に力強い音を出します。この頃のマランツのビンテージオーディオを評する時に良く目にする「乾いた音」といった感じではなく、軽やかでありながら広がりを感じる、空間表現力のあるパワフルさです。
これまで聴いていたSONY 555ESG(のパワーダイレクト)から聴く音は、どっしりとした音の塊が前面にダイレクトに出てくる感じだったので、マランツのパワーアンプには音楽的な表現力を感じます。